【大好き】第7話 宝物
code:第7話
早坂は藤堂の手を握って、自宅までの道を歩いた。早坂は石畳の道を見つけると、やっぱり白いところだけを選んで歩いた。藤堂もそれに倣い、二人は顔を見合わせて笑った。晩秋の風が吹き抜けたが、つないだ手と心のぬくもりが二人を温めた。
早坂の自宅は小さな古いアパートだった。
「お母さーん! ただいま!」
早坂は元気な声で帰宅を告げるが、薄暗い部屋に人の気配はない。隅に置かれた机の上に、優しく微笑む女性の写真が一枚飾られているだけだった。
写真の周りには、お菓子と早坂が描いた絵が丁寧に並べられていた。
藤堂は写真を見つめ、そして早坂の優しい笑顔の理由を理解した。胸が痛むような温かさで満たされた。
「お母さん、準さんが会いに来てくれたよ。僕が描いた絵よりも、実物のほうがかっこいいでしょ? 準さんは僕の特別な人だよ。大好きよりももっと大好きな人だよ」
早坂は母親の写真の前で、身振り手振りを交えて藤堂を紹介した。
早坂が母親の写真に話しかける姿に、藤堂は深い愛情を感じていた。
写真の前に座った藤堂は、そっと手を合わせ、目を閉じる。
「お母さん、初めまして。藤堂準と申します。真のことを、必ず大切にします。約束します」
藤堂は心からそう誓った。
「準さん、宝物はこっちですよ!」
早坂は母親の写真が飾られている机の上からお菓子の空き缶を取り上げると、藤堂の前で開けた。中には恐竜のシールがたくさん入っていた。
「これは、お母さんが買ってくれた恐竜シール! 準さん、いつも使っている手帳を出してください」
早坂に言われて藤堂が高級な革の手帳を机に置くと、早坂は嬉しそうに手帳の表紙にティラノサウルスのシールを貼った。
「準さんの大切な手帳に貼ってあげますね、僕の宝物だから。準さんは強いから、ティラノサウルスのシール!」
早坂は満足げに、藤堂に手帳を返した。
藤堂は、高級な手帳に貼られた少し色あせた恐竜のシールをそっと撫でた。早坂の大切な思い出の品を分けてもらえることに、深い感動を覚えた。
「真……このシール、本当に大切な宝物なのに、もらってもいいの?」
「はい! 大切な宝物だから、準さんにもらってほしいんです!」
早坂の言葉を聞いて、藤堂は手帳を胸に抱き、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。このティラノサウルスのシールは、私の新しい宝物になったよ。でも、本当の宝物は……」
早坂の目をじっと見つめて、続ける。
「真との出会いそのものなんだよ。お母さんは、きっと喜んでくれていると思う。真が、こんなに優しい人に育ったことを」
藤堂は母親の写真に視線を向けた。その笑顔は、確かに早坂に受け継がれていた。
「準さん、僕の中は準さんへの『大好き』でいっぱいです」
早坂は藤堂にそっと抱きついて、甘える素振りを見せた。
「次は動物園に行きましょう。手帳に書いてくださいね、『真と動物園』って」
母親の写真の前で、早坂は安心しきった顔をしていた。藤堂はそんな早坂を優しく抱きしめ返しながら、手帳を開いた。
「もちろん、ここに書くよ。来週の土曜日はどう?」
手帳にペンを走らせながら、藤堂は言葉を続ける。
「動物園で、真の好きな恐竜に似ている動物を探そうね。それから……カフェでお茶をして、真の絵も見たいな」
「約束、してくれるんですか?」
「真との約束は、私の宝物だから」
藤堂は早坂の髪を優しく撫でながら、母親の写真に視線を向けた。写真の中の優しい笑顔が、二人を見守っているように感じられた。
「ねぇ、真。これからもずっと、一緒にいようね。私たちの『特別』な関係を、大切に育んでいきたいんだ」
「はい、準さん。僕はずっと、準さんと一緒にいます。準さんは特別で、大好きな人だから」
「大好きだよ、真」
アパートの小さな部屋に夕日が差し込んで、抱き合った二人を柔らかく照らしていた。
二人は互いに、幸せな未来を夢見ていた。